夜半まで降っていた雨はもう上がったようだ
水気をたっぷりと含んだ風が木々の葉を揺らし、蒸し暑くなるだろう今日の気温を暗示している
窓越しであろうと五感を研ぎ澄ませれば季節の移ろいやその匂いまで感じ取れるものである
「明日は墓参のために外出をしたいのですがよろしいでしょうか?」
一年365日、付き切りで僕に尽くしてくれる坂崎だが、今年のお盆は無くなった兄の墓参に行くという
戸惑ったような、照れたような、寂しげな表情でそう告げる坂崎に僕は、
「おひょいさんによろしく」と告げた
坂崎の複雑な表情と重なるように、僕は一枚のポスターを思い出していた
ジェームス・ディーンの表情にしびれたLevi's501 ポスターである
白いTシャツに履きこんだ501 そして赤いスウィングトップ
恐らくはジーンズ(当時はジーパン)の着こなしの原点であり、世にどんな奇抜なファッションが生まれようと、最後に帰結するであろう組み合わせだと思う
ちなみにジェームス・ディーン本人が大層気に入っていて、映画「理由なき反抗」で履いていたのはLeeのライダースである(豆知識披露)
僕も若い頃を思い出してジーンズでも履こうかな?などと考えつつ、クローゼットへ向かう
当時物の501なぞはもうすでに処分してしまったし、現在の体形ではDEQUARED2のCOOL GUYも厳しい
そもそも労働のための衣服でファッション性が皆無だったからこそアンチテーゼとしてかっこよかったのではないか!
大いなる勘違いをしていたのは歳を経てオトナになった僕のほうではないか!
「ゴースト ニューヨークの幻」でパトリック・スェイジがくたびれたジーンズ一丁でデニ・ムーアの背後から
ろくろを回すあの有名なシーンも、こじゃれた格好だったら絶対にインパクトが半減しただろう
そういえばずいぶん顔面崩壊しちゃったけど元気にしているだろうか?
「素顔のままで」の頃からファンだったし、ブルース・ウィリスと結婚したときはお祝いに駆け付けたっけ
馬鹿でかい純金製の電話を使うのは大変に面倒なのだが、これも我が家の様式美である
係に電話を繋ぐよう指示を与えた
「久しぶりにデニ・ムーアと話したい、繋いでくれないか」
「だ、旦那様・・・・あの・・・・デミ・ムーア様でよろしいでしょうか?」
「うん?デニ・ムーアだが?」
「は、はい、デミ・ムーア様をお呼びいたします・・・・・」
「デミ・???ムーア・・・・ああああああああああああああああ!!!」
何ということでしょう、僕はずっとデミ・ムーアを デニ・ムーアと思っていたのだった。
僕の勘違いをあざ笑うが如く、晩夏の日差しが強烈に輝いていた