K田K吉は、八丁堀高校の教師である。一見体育教師と見紛う程の筋骨隆々とした巨躯を持っているが、担当は美術であり、その肉体的長所を余り活かしていないかのように見える。
だが、それは世を忍ぶ仮の姿。生徒には画業で出張と言ってしばしば長期で学校を留守にするが、実はその間、東に荒れた教室があれば行って馬鹿なことはやめろと拳でわからせ、西に悩める教師がいれば行って酒を酌み交わしてその悩みを分かち合い、南にいじめられっ子がいれば行って恐がらなくてもいいと言い、北に喧嘩が起きそうなら男は拳でこそ語り合えるものだと説き聞かせる、八面六臂の活躍をしているのである。
その一方で、ふだんはそんな活躍をおくびにも出さず、大学受験の日には参籠して一心に神仏の加護を祈り、合格発表の日には報告が届くまでおろおろ歩き、でくの坊と呼ばれて決して褒められることはないのだが、それをむしろ喜んでいる、そういう人に彼は既になっている。
今夏、民明書房より刊行。鶴首して待て。