十数年前、さいたま市大宮駅近くの馴染みの店で
衝撃の食べ物を味わった。
店のマスターが、「皆に御馳走するよ!」と常連客が
居並ぶカウンターの上に、ドン!と大きな塊を置いた。
それはボーリング玉程の大きさの椰子の実だった。
てっきり、ココナッツジュースでもゴチになるかと思っていた。
マスターはいきなり折り畳み式のノコギリで、椰子の実を
ギコギコ切り始めた。
「これが実に固いんだよ。」と悪戦苦闘すること15分。
まだ未熟の実の上部が切り落とされた。勿論、中の
甘いココナッツジュースはみんなで美味しく頂いた。
切断面を見ると硬い表皮の内側に白い果肉部分がある。
マスターが大きなスプーンで、その白い果肉を削り始めた。
大きなボウルに、てんこ盛りの量である。
すると、マスターは刺身用の皿に人数分取り分けて、
「醤油と、ワサビで食べてください」と我々に勧めてくれた。
言われるがまま、ヌメッとした白い刺身を口に運んだ。
「!」。衝撃の旨さである。まるで、マグロの大トロのような
滑らかな舌触りと、触感であった。程良い脂の旨味が口中に
拡がった。目をつぶって食すと完全にマグロである。
脳が騙され、混乱する程の食体験だった。
白い果肉部は固形胚乳といわれ、ヤシ油の原料に
なるらしい。脂が乗っているのは当然である。
機会があれば、是非とも食べてみたいものである。
大宮のマスターへ。「世にも珍しい刺身、御馳走様でした。」