既に複数の5G研究団体、学会、移動通信関係各社で5Gのユースケースや要求条件が検討されており、白書[6]として数多く発表されている。5G関係者の多大なる尽力により、複数の5G研究団体間で、大枠としてほぼ共通のユースケースと要求条件が見いだされるに至っている。一例として、日本の電波産業会(ARIB)の2020
and Beyond Ad Hoc(20B
AH)グループにて2014年に発表された白書[1]に記載されているユースケースと要求条件に関する図を引用し、図1と図2に示す。以下に、大枠として世界の共通の認識となっている5Gのユースケースを考慮した要求条件の概要を述べる。
現在、人と人の通信やサーバー上のコンテンツを人が利用する人と物の通信が主要な通信形態であるが、IoT(Internet of
Things)やM2M(machine to
Machine)通信に代表される、物対物の通信に対する期待が高まっている。電力・ガスなどのメーターに対する通信モジュールの設置は現在、普及段階にあり、農業、畜産業、建築物に対するセンサーの設置に対する要求も高まっている。2020年代には、これらの普及がより一層進むと考えられ、さらに、多種多様なものに通信モジュールを設置することで、ユーザーに対する利便性の向上、セキュリティ向上、コスト削減などの効果が期待できる。特に自動車や電車などの輸送機器に対する移動通信の期待は高く、自動運転含むドライバーのサポートや、娯楽、安全性の向上等のユースケースがよりいっそう重要視される。家電や家屋、オフィスに対する遠隔制御やセキュリティ確保もより普及すると考えられる。また、ウェアラブル端末のような人に対する通信手段も多様化すると考えられる。眼鏡型端末が代表例としてあげられるが、2020年代には触感通信も実用化されると考えられており、触感を利用したサービスの普及も予想される。また、ヘルスケアのために衣類などにセンサーと通信機能をもつデバイスを設置するというようなユースケースも考慮されている。
この要件を満たすため、5Gモバイルネットワークアーキテクチャにおいて、我が国が焦点を絞って研究開発をするべき分野として、(1)ネットワークソフトウェア化(Network
Softwarization)(2)モバイルフロントホール・バックホール技術(MFH &
MBH)(3)モバイルエッジコンピューティング(MEC)の活用技術、そして、(4)制御管理技術(Management and
Orchestration)の4つのエリアに注力するべく戦略が立てられている。 このうち特にネットワークソフトウェア化は、従来のSDNやNFVを超える広い範囲のソフトウェア化を提唱する意味が込められており、ネットワーク仮想化でよく言われているスライス(ネットワーク・計算能力・ストレージなどのリソースを面で割当てた単位)を(1)水平方向に拡張しNFVでいわれるMECをさらにUEやクラウドまで拡張しソフトウェア化するスライスの水平拡張、(2)垂直方向にもSDNで言われる制御プレーンだけではなくデータプレーンのプログラム性も含む垂直拡張、そして、(3)同時に全ての技術要素をソフトウェアだけで構成するのではなくアプリケーションに応じてソフトウェア・ハードウェアの構成を柔軟に選択する制御などの概念が含まれている。
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世界的に5Gに関する研究の機運が高まり、国内外で多くの5G研究団体が発足し、精力的に研究が進められている。本稿では、世界的に共通の方向性と言えるユースケースや要求条件および主要な技術の方向性について述べた。国内では、ARIB
2020 and Beyond Ad Hocでの無線関係の検討を経て、現在、第5世代モバイル推進フォーラムにて精力的に検討が進められている。