シクラメン 
(学名:Cyclamen persicum)はサクラソウ科シクラメン属に属する地中海地方が原産の多年草の球根植物の総称である。カガリビバナ(篝火花)、ブタノマンジュウ(豚の饅頭)とも表記される。この記事においては特に明記しない限りはC. persicumとその品種、変種のみを指して用いる。
属名の Cyclamen は中世ラテン語であり、古典ラテン語のcyclamīnosに由来する。また、そのcyclamīnosはそのおそらく球根の形から、または受粉後に花茎が螺旋状に変化する性質から、「円」を意味する古典ギリシア語に由来し、シクラメンを表す古典ギリシア語のκυκλάμινος(ラテン文字転写:kyklāmīnos)から来たとされる。
イギリス英語では/ˈsɪk.lə.mən/(スィクラメン)、アメリカ英語では/ˈsaɪkləmən/(サイクラメン)と発音されるが、古典ラテン語の発音 /ˈky.kla.men/ に近づけ転写すると「キュクラメン」となり、文献によっては、「キクラメン・~」と表記する場合もある。
シクラメンの原種は地中海沿岸、ギリシャからチュニジアにかけて自生している。ただしC. persicumやC. somalense は、花茎は巻かずに垂れる。シクラメンは双子葉植物として分類されているが、発芽時に地表へ出る葉は1枚である。また、子葉から数えて7、8枚目の葉が出た頃から花芽の形成が始まる。葉柄は長くハート形の葉には白斑があり、葉芽と花芽は対で生長し、花茎を伸ばして花をつける。日本における開花期は秋から春にかけてで、花弁は一重または八重、色は白や赤・黄・桃色と多様性に富んでいる。開花後はすぐ結実するが、そのままでは株が弱るので、採種が目的でも数輪残すだけにし、そうでない場合は開花後の花柄を全て取り除くことが推奨されている。球根は茎が肥大したもので分球せず、表皮がコルク状で乾燥によく耐え、球根が地上に露出した状態を好む。
古来は「アルプスのスミレ」と呼ばれたが、花よりも塊茎の澱粉が珍重され、サポニン配糖体シクラミン (Cyclamin) などの有毒物質を含むにもかかわらず食用にされていた。しかし、ジャガイモなどが流通するようになる大航海時代以後はその習慣も廃れた。また、ギリシャでは塊茎が亀に似ることから「ケロニオン(亀)」と呼ばれていた。アプレイウスは著書「本草書」の中で、シクラメンを鼻に詰めると脱毛に効果があると記している。ウィリアム・ターナーは、シクラメンは出産のための強い薬であり、妊婦はまたがないほうが良いと言っている。また、同氏は1551年に “sows bread”(雌豚のパン=放し飼いの豚がシクラメンの球根を食べてしまうことから命名したが、1895年キャノン・H・N・エラコムは庭に入って来た豚が球根を掘り返したが、食べようとしなかったと述べている)として紹介している。1650年代、現在のシクラメンの元になったC. persicumがイギリスに入ってきた。
シクラメンに関する伝説で、草花を好んだソロモン王が王冠に花のデザインを取り入れようと思い、様々な花と交渉するが断られ、唯一承諾してくれたシクラメンに感謝すると、シクラメンはそれまで上を向いていたのを、恥ずかしさと嬉しさのあまりにうつむいてしまった、というものがある。これは、シクラメン(カガリビバナ)が やや下向きに花をつけることが多いことに基づいた伝説であり、この花の花言葉が「内気なはにかみ」とされているのはそのことによると考えられる。
日本には明治時代に伝わり、本格的な栽培は、岐阜県恵那市の伊藤孝重が始めたとされる。戦後急速に普及し、品種改良も進められて、花色も黄色や二色、フリンジ咲き、八重咲きなどが登場した。日本における鉢植え植物としての栽培量はトップクラスで、冬の鉢植えの代表格として定着している。
カガリビバナという和名は、この花を見たある日本の貴婦人(九条武子だといわれている)が、「これはかがり火の様な花ですね」と言ったのを聞いた植物学者・牧野富太郎が名付けた。「ブタノマンジュウ(豚の饅頭)」は、植物学者・大久保三郎[21]が英名を日本語にそのまま移し替えた名前である。
「死」「苦」との語呂合わせや、赤色は血をイメージさせることから、この花を病人への見舞いに供することは縁起が悪いとされている。