トリカブト 
(鳥兜・草鳥頭、学名:Aconitum)は、キンポウゲ科トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。スミレと同じ「菫」と漢字で表記することもある。
ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ、トリカブトの仲間は日本には約30種が自生している。花の色は紫色のほか、白、黄色、ピンク色など。多くは多年草である。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。トリカブトの名の由来は、花が古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "monkshood" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味。花言葉は「人嫌い」・「復讐」などなど。
塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに着いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある。
ヨーロッパでは、魔術の女神ヘカテーが司る花とされる。ギリシア神話では、地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。狼男伝説とも関連づけられている。
比較的有名な有毒植物。主な毒成分はジテルペン系アルカロイドのアコニチンで、他にメサコニチン、アコニン、ヒパコニチン(hypaconitine)、低毒性成分のアチシンのほか、ソンゴリンなどを全草(特に根)に含む。採集時期および地域によって毒の強さが異なるが、毒性の強弱にかかわらず野草を食用することは非常に危険である。
食べると嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることもある。経皮吸収・経粘膜吸収されるため、素手で触った場合は手洗いが推奨される。経口から摂取後数十秒で死亡する即効性がある。半数致死量は0.2グラムから1グラム。トリカブトによる死因は、心室細動ないし心停止である。下痢は普通見られない。特異的療法も解毒剤もないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている。
芽吹きの頃にはニリンソウ、ゲンノショウコ、ヨモギ、モミジガサなどと外見が似ているため、誤食による中毒事故が起こる(死亡例もある)。株によって、葉の切れ込み具合が異なる(参考画像を参照)。蜜や花粉にも中毒例があるため、養蜂家はトリカブトが自生している地域では蜂蜜を採集しないか開花期を避ける。また、天然蜂蜜による中毒例が報告されている。
古来、毒矢に塗布するなどの方法で、狩猟・軍事目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきた。アメリカのエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが、1763年のペテルブルクへの報告で知られる。
漢方ではトリカブト属の塊根を附子(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である。
しかし、毒性が強いため、附子をそのまま生薬として用いることはほとんどなく、修治と呼ばれる弱毒処理が行われる。炮附子は苦汁につけ込んだ後、加熱処理したもの。加工附子や修治附子は、オートクレーブ法を使って加圧加熱処理をしたもの。修治には、オートクレーブの温度、時間が大切である。温度や時間を調節することで、メサコニチンなどの残存量を調節する。この処理は、アコニチンや、メサコニチンのC-8位のアセチル基を加水分解する目的で行われる。これにより、アコニチンはベンゾイルアコニンに、メサコニチンはベンゾイルメサコニンになり、毒性は1千分の1程度に減毒される。これには専門的な薬学的知識が必要であり、非常に毒性が強いため、素人は処方すべきでない。