https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_188.html
病気としてとらえるべき筋肉の減少「サルコペニア」とは
加齢とともに筋肉が減っていくのは自然な減少ですが、筋肉量の減少が急激で病気ととらえて対処すべき状態を「サルコペニア」といいます。Sarx(筋肉)とPenia(減少)というギリシャ語を組み合わせた造語で、1989年ごろにアメリカで提唱された比較的新しい概念です。
サルコペニアは65歳以上の高齢者に多く、特に75歳以上になると急に増えてきます。世界各国で調査された大規模な統計から、高齢者の6〜12%がサルコペニアであると考えられています。サルコペニアになると、さまざまな影響が起こってきます。歩く速度が低下し、着替えや入浴など日常生活の動作も行いづらくなります。体のバランス機能が悪くなり、転倒・骨折の危険性が高くなります。
また、糖尿病や肺炎などの感染症を発症しやすくなり、死亡率を高くすることもわかってきました。
サルコペニアの診断は、筋肉量・歩行速度・握力を測定して行います。以前は欧米人の診断基準しかありませんでしたが、2014年にアジア人のための診断基準がまとまりました。
筋肉量が寿命を左右する!?筋肉と健康の関係サルコペニアの診断、セルフチェックはこちら
サルコペニアと密接に関係する「フレイル」とは
サルコペニアは、健康と要介護の間の状態である「フレイル」の最大の危険因子と考えられています。
フレイルは「虚弱」を意味する英語「フレイルティ」を元にした造語です。日本老年医学会は、2014年に「健康」と「要介護」の間の状態をフレイルと名付けました。以前であれば老化現象として見過ごされてきたものをフレイルと名付けることで、社会全体でその予防に取り組むことを目指しています。
フレイルには、体重減少や筋力低下などの身体的な変化だけでなく、気力の低下などの精神的な変化、引きこもりなど社会的な変化も含まれます。75歳以上の人の多くはフレイルの段階を経て要介護状態になりますが、フレイルの段階で早めに対処すれば、健康な状態に戻る可能性があると考えられています。サルコペニアが起こると、フレイルに進む可能性が非常に高くなります。
若い人でも要注意!サルコペニア予備群
65歳以下の人でも、デスクワークや自動車に頼る生活習慣などによって、筋肉が著しく減っている場合があります。若い人の中にもサルコペニア予備群がいるので、注意が必要です。
サルコペニア予備群には3つのタイプがあります。次のタイプに当てはる人は注意しましょう。
やせている(BMI18.5以下)75歳以上の高齢者
特にたんぱく質の摂取が少ない粗食の人は注意が必要です。
高齢者のBMIの範囲の下限の引き上げについて
メタボで脚が細いタイプ
メタボや肥満を医師から指摘されて食事制限は行っているけれども、運動を全くしていないといった場合です。このタイプは、筋肉の減少と肥満の両方を併せ持つ「サルコペニア肥満」と考えられます。体重の負荷の割に筋力が弱いため、転倒しやすくなります。
若い女性
ダイエット目的で食事制限だけを行い運動をしないと、脂肪だけでなく筋肉も少なくなってしまいます。
高齢者がなりやすい「サルコペニア肥満」。
食事習慣と筋トレで改善しよう
https://www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/meal/no48/
筋肉量が減って脂肪が増えた状態を指す「サルコペニア肥満」は、痩せた状態の方が多いため、自分では気づかないままに進行してしまうことがあります。転倒や低栄養などのリスクも高まるため、日頃の食事や運動が大切になります。今回はサルコペニア肥満を改善するために大切な栄養素や簡単な筋トレを紹介します。
サルコペニア肥満とは、「筋肉」と「減少」を掛け合わせた造語で、筋肉量が減って脂肪が増えた状態を指します。
肥満による生活習慣病のリスクが高まる点も心配ですが、特に運動機能低下によるリスクが問題視されています。
サルコペニア肥満は目に見えて太っている人よりも、やせ型の人のほうが該当する場合が多いのが特徴。自分では気づきにくいので、いつの間にかサルコペニア肥満が進行していることも多いのです。
今回は、サルコペニア肥満の状態やリスクを解説するとともに、改善するための食事や運動について紹介します。
高齢者女性はとくにサルコペニア肥満に注意
高齢者は、筋肉量が減少することにより、脂肪がつきやすくなります。筋肉量が減るため、一見すると体形や体重に変わりがなく、肥満状態になっていると気づきにくいのが特徴です。
これをサルコペニア肥満といいます。筋肉量の少ない女性の方がなりやすいといわれており、以下のように定義されています。
サルコペニア肥満の定義
- 握力が男性28kg未満、女性18kg未満
- 歩行速度1.0m/秒未満
- DXA(二重エックス線吸収法)による骨格筋量指数が男性7.0kg/㎡未満、女性5.4kg/㎡未満
上記の1、2のいずれか、あるいは2つとも当てはまり、3に該当する場合はサルコペニア肥満だとされます。
自分で判断する場合は、次の項目もチェックしてみてください。
チェックリスト
- ペットボトルのフタを開けにくくなった
- 横断歩道を渡り切れない
- 1分以上片足立ちができない
- つまずきやすくなった
- 疲れやすい
1つでも当てはまる場合、サルコペニア肥満に該当する可能性があります。
サルコペニア肥満のリスク
次に、サルコペニア肥満の主なリスクを挙げます。
- 筋肉減少による転倒リスク
- 低栄養
- 体温低下による免疫力低下のリスク
- 生活習慣病のリスク
サルコペニア肥満になると、歩行機能に影響が出やすくなります。転倒しやすくなるということは、骨折のリスクが高まり、結果的に寝たきりの状態につながることもあります。
また、筋肉量が減って基礎代謝が下がると、食欲不振や低栄養が懸念されます。筋肉は熱を生み出す役割を持つため、筋肉量が減るとその分だけ体温も上がりにくくなり、免疫力も低下して、感染症などにかかるリスクも高まります。
もちろん、肥満によるリスクも見逃せません。糖尿病や脂質異常症、高血圧、心臓病などさまざまな生活習慣病のリスクも高まってしまいます。
サルコペニア肥満とメタボリックシンドロームの違い
サルコペニア肥満とメタボリックシンドロームは混同されがちですが、それぞれ改善のアプローチ方法が異なります。
サルコペニア肥満は、筋肉量が減少することにより、脂肪がつきやすくなった状態です。対して、メタボリックシンドロームは、筋肉量はさほど変わらず、内臓脂肪が増えていくという状態です。
つまり、メタボリックシンドロームは内臓脂肪を落とすことだけを考えれば良いのですが、サルコペニア肥満は筋肉量を増やしつつ、脂肪を落とさなければなりません。
サルコペニア肥満を改善するための食事方法
まず、筋肉量を回復させることが大切です。そのためには食事の内容を見直しましょう。
たんぱく質
たんぱく質は、筋肉の材料になる栄養素です。しかし、高齢になると摂食嚥下能力が低下しやすくなるため、自然とたんぱく質を避けるような食事になりがちです。
ごはんと煮物、漬物など、ほとんどたんぱく質を摂れない食事になることも少なくありません。このような食事では筋肉の材料が不足するため、以下のような食材を取り入れてみましょう。
- 肉(柔らかさを求めるならひき肉)
- 魚
- 大豆製品(豆腐、納豆など)
- 乳製品(牛乳、チーズなど)
- 卵
特に、肉や魚はたんぱく質量も多く、吸収率も良いので積極的に摂りたい食品です。肉が固くて食べにくい場合は、圧力鍋などを利用してしっかり柔らかくなるまで煮込んでも良いでしょう。ひき肉料理は食べやすく、おすすめです。
また、サルコペニア肥満を予防するために、1日あたりたんぱく質を「1.0g×体重」以上を摂る必要があります。ただし、筋肉量を増やすには足りないことも多いため、「1.2~1.5g×体重」を目安にすると良いでしょう。
例:体重65kgの場合
- 最低でも摂りたいたんぱく質量:65g/日
- 目安にしたいたんぱく質量:78~97.5g/日
ただし、普段からたんぱく質を摂っていない方が、若者並にたんぱく質を摂るのは難しいかもしれません。その場合は、無理のない範囲で徐々に増やしていくことをおすすめします。食事だけでは補えない場合は、栄養補助食品に頼っても構いません。
また、腎機能が低下している方は、必ず医師や管理栄養士に指示された量のたんぱく質を摂取してください。
炭水化物
筋肉量を増やすには、炭水化物も大切です。
炭水化物はエネルギー効率がよく、脂質、たんぱく質よりも優先的にエネルギーとして利用されています。筋肉量を増やすためには運動が欠かせないため、炭水化物を摂って体を動かすエネルギーを補給する必要があるのです。
炭水化物は、毎食ごはんを食べている方ならほとんど心配ありませんが、糖質制限ダイエットを取り入れている高齢者は要注意です。
ビタミンB群
ビタミンB群の中でも、ビタミンB2、B6、B12などはたんぱく質の代謝に関わっています。それぞれの栄養素が多い食材を列挙しましょう。
ビタミンB2
ビタミンB6
ビタミンB12
これらの食品をたんぱく質の多い食品と一緒に摂取して、筋肉を育てましょう。
ビタミンD
ビタミンDは骨の成長に関わりがありますが、同時に筋肉の合成にも役立ちます。骨粗しょう症を防ぐのにも役立つので、高齢者は意識して摂りたい栄養素です。以下のような食材を積極的に摂取しましょう。
ビタミンDが多い食品
サルコペニア肥満を改善するための運動
サルコペニア肥満の改善には、食事だけでなく適度な運動を取り入れて筋肉量を増やすことも重要です。有酸素運動と筋トレを組み合わせると、効果的に筋肉量を増やせます。
有酸素運動はウォーキングでもいいですが、筋肉量が減っている方は転倒の恐れがあるため、安全なプールでの水中ウォーキングがおすすめです。
ここからは、簡単にできる筋トレをご紹介します。ただ、体に痛みがある場合は無理のない範囲で行ってください。かかりつけ医または理学療法士などに相談しても良いでしょう。
ハーフスクワット
太ももの大きな筋肉を増やすのに適した筋トレです。
まず、両足を肩幅に開き、ゆっくりと膝を落とします。直角になるまで膝を落としたら、膝が伸び切らないよう、ゆっくりと上げましょう。この動作をほどよく疲れるくらいまで繰り返します。
もも上げ
椅子の背につかまるなどをして、バランスを取りながら、片足をお腹のあたりまで上げて、ゆっくり下げましょう。片足5回程度繰り返したら、もう片方の足も同じように上げ下げしてください。
つま先立ち
椅子の背につかまるか、壁に軽く手をつき、かかとを床につけないよう上げ下げします。慣れてきたら、椅子や壁の補助なしで行っても良いでしょう。
サルコペニア肥満は、放っておくと転倒による骨折や、感染症にかかりやすくなるなどのリスクが考えられます。
もし「以前よりもつまずきやすい」「歩行速度が落ちた」「握力が落ちた」などと感じる場合は、食事内容の見直しと運動習慣を取り入れてみましょう。