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甘い物好きの高齢者はアルツハイマー病のリスク上昇
炭酸を過剰に採るとアルツハイマー病の発症率が3倍高まる
7月下旬、アメリカ・シカゴで開催された「アルツハイマー病協会国際会議」において、甘い飲食物、特に炭酸飲料を過剰に飲み続けると、アルツハイマー病を発症するリスクが高まる恐れがある、との研究結果が報告されました。
研究は、アメリカのコロンビア大学の研究チームが実施。
高齢者2,226人を7年もの間、調査することで行われました。
調査期間中に対象者が取った食事と飲み物のうち、加糖されたものについて逐一記録を取り、認知症との関係性(調査期間後の認知症発症者数は429人)を調査したとのことです。
それによると、加糖された飲食物によって1日あたりの糖分摂取量が30.3gだった人は、5.8gだった人に比べてアルツハイマー病になる割合が33%高かったとのこと。
また同研究チームによれば、特にアルツハイマー病発症のリスクが高まるのは「炭酸飲料」。
研究報告では、炭酸飲料と炭酸が含まれていない加糖飲料を比較したところ、炭酸飲料は発症リスクが著しく高いことが示されています。
WHOの指針では、健康維持のために、糖類の摂取量を平均的な成人男性で1日あたり25g(ティースプーン6杯分)未満に抑えることを推奨していますが、今回の研究結果を踏まえると、高齢者の場合はもっと少なくてもいいと言えるでしょう。
なぜ高齢者は「おやつ」が好きなのか
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントが、75歳以上の男女100人を対象に行った調査によれば、男性の43%、女性の58%が「つい、甘いものをデザートや間食に食べてしまう」と回答。
また同様に男性の58%、女性の41%が、「薄味よりも濃い味付けが好き」とも答えています。
若者が好むような、甘いものや濃いものが好きな高齢者はかなり多い、という結果が出ているのです。

出典:株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント 更新
なぜ高齢者は、甘いものや濃いものを好むのでしょうか。
その原因のひとつが、加齢とともに味覚や嗅覚が衰えてしまうから、ということがあります。
味覚は口の中にある味蕾(みらい)細胞を通して感じられるものですが、高齢者の場合、この味蕾細胞の生成に必要な「亜鉛」が不足がちになってしまうのです。
また、高齢者は唾液の分泌量が少ないということも挙げられます。食べ物の成分が唾液に溶けにくいために味覚が刺激されにくくなり、それゆえ刺激の多い甘いものや濃いものを好むようになる、というわけです。
そもそも高齢者の場合、食生活(三食の量が減り、栄養素が不足しがち)、味覚の変化、QOLの観点から食事よりも「おやつ」を重要視する傾向もあります。
しかし、おやつに含まれる糖分は多く、炭酸飲料だと500mlあたり角砂糖15個前後も入っているのです。おやつを食べ過ぎると、それだけ糖分の過剰摂取につながるリスクがあります。
糖分の採りすぎがさまざまな病気を誘引する
血糖値上昇でアミロイドβが蓄積
近年、多くの研究によって、高血圧や、肥満、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病が、アルツハイマー型認知症の発症と深く関係していることが明らかにされています。そのなかでも、特に注目を浴びているのが糖尿病と認知症との関連性です。
体内の血糖はインスリンによってコントロールされていますが、運動不足や食べすぎといった生活習慣の悪化によってインスリンの働きが衰える、あるいは不足するようになると、血糖は制御されなくなります。
その結果、血糖値が高い状態となってしまい、さらにその状態が長期にわたって続いてしまうと、脳の神経細胞が損傷を受けやすくなってしまうことが既存研究によって示されているのです。
また、インスリンは役目を終えるとインスリン分解酵素が作用して分解されていくのですが、その際、アルツハイマー型認知症の原因とされる「アミロイドβ」という物質も一緒に分解してくれることがわかっています。
しかし血糖値が上がると、それを制御しようと体はインスリンの分泌量を増やすようになり、インスリン分解要素はインスリンの分解を優先する中で、アミロイドβを分解する余裕がなくなるのです。
そうなるとアミロイドβはより蓄積しやすくなり、アルツハイマー型認知症が発症しやすくなってしまいます。
歯周病も認知症の原因に
糖質の摂り過ぎは、歯の健康にもよくありません。
虫歯は、物を食べた後に口内が酸性となり、その酸によって歯の表面を覆っているエナメル質が溶けることで生じやすくなります。
このとき、虫歯を引き起こす要因となる「酸」は、口内の虫歯菌が糖を利用して作るので、虫歯のリスクを否応なしに高めることになります。

出典:厚生労働省 更新
さらに虫歯菌は、アイスやケーキなどに含まれる糖分だけでなく、炭水化物からも酸を作り出すので、夜食でパンやラーメンなどを食べることでも、虫歯のリスクにつながると言えるでしょう。
また口内環境が悪化すると、歯周病になるリスクも高まります。歯周病とは歯ぐき部分に炎症が起こることをいいます。これを改善しないまま放置すると、歯と歯肉に深い溝ができるようになり、歯が抜けてしまうのです。
さらに、この歯周病が認知症の原因につながることもわかっています。
古屋市立大学、国立長寿医療研究センターなどが行った研究では、歯周病によって生じる毒素がアルツハイマー型認知症の要因であるアミロイドβを増やし、認知症の症状を悪化させることが明らかにされました。
同研究によると、 歯周病を発症したマウスとそうではない対照マウスを3ヵ月飼育したところ、歯周病マウスはアミロイドβタンパク質のレベルが、対照マウスの約1.4倍に上っていたといいます。
おやつが好きな高齢者がなりやすい病気とは
食が細い高齢者は「糖質依存症」に注意
糖尿病のこと、そして認知症のことを考えると過剰な摂取を控えたい糖分ですが、砂糖・糖質には依存性があることがわかっています。
糖分を摂取して「甘い」「おいしい」と幸福感を感じるとき、それはドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどの「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質が放出されている状態です。
これらの物質は人に幸福感、癒しを与える一方で、一種の中毒性をもたらす危険性もあります。
身体が疲労したときやストレスを感じるたびに、甘いもの・糖分を摂取して幸福感を感じるようになると、この快感がクセになってしまい、やがて無意識のレベルで脳が「快感のために糖分を得たい」と感じるようになるのです。
これが「糖質依存症」のメカニズムになります。
特に、普段から食が細い高齢者が甘いお菓子などを空腹時に食べると、快楽物質が作用し、より依存症になりやすいとも考えられ、過剰摂取には十分に注意する必要があるでしょう。
低GI食品を適度に採り認知症リスクを減らす
とはいえ、脳のエネルギーはブドウ糖です。過剰に糖質を摂ることは控えるべきですが、同時に、過度な糖質制限も脳にとって良いとは言えません。
最近注目を集めている食品のひとつに「低GI食品」があります。
GIとは食後における血糖値の上昇度を表す指標のことです。
つまり、 低GI食品とは食後の血糖値の上昇を穏やかにする食品のことを指します。
これを食生活に取り入れることでインスリンが正常に働きやすくなり、糖の吸収を早くしてくれる効果が期待できるというわけです。
血糖値の上昇を抑え、糖尿病の予防を心がければ、先に述べたような認知症のリスクを下げることにもつながります。

出典:厚生労働省 更新
高齢者は加齢とともに食事の量が減り、その代わりにおやつや甘いものをたくさん食べようとするなど、食生活が乱れやすい傾向にあります。しかし、すべての健康のもとはやはり正しい食事。それを心がけることが、健康への一番の近道ではないでしょうか。
今回は認知症と糖質との関係に注目しました。甘いものが好きな高齢者の方は多いでしょうが、認知症予防のためにも、その食べ方を見直し、工夫する必要があるかもしれません。