今回のお題は「田舎で過ごした夏の思い出」です。
幼いころ、毎年夏には長野にある父の生家に遊びに行っていた。
ひんやりとした広い土間のある旧家の大きな屋敷で、
祖父の弟夫妻--つまり大叔父夫妻--が暮らしていた。
わたしたちは、庭に建つ小さな離れに泊まらせてもらっていた。
きれいに手入れされた庭には苔が生え、
むやみに歩き回ると母にこっぴどくしかられたものだ。
幼稚園に通っていた時分のことである。
テレビは母屋の居間に1台あった。
4本の足のついた、家具調テレビだった。
自宅にいると、決まった時間にしかテレビは見させてもらえなかった。
よそのお宅にお邪魔しているときなら、
そうそう怒られることもなく、好きなだけテレビを見ていられるのではないか。
そんな期待を抱いていたが、やはりテレビの前にかじりついていれば、
「もう終わり」と母にスイッチを切られる。
勝手のわからぬ田舎で、
時間はおそろしくゆっくりと流れていた。
昼でも薄暗い土間で、
なにをするともなく、ぼんやりとしゃがんでいた。
「どうしただい?」
見知った大人の女性に声をかけられた。
畑仕事の合間に戻ってきていたねえやだった、と思う。
「テレビ見たいのに、ママが、もうダメだって……」
ねえやは、「あらま」と言って、
高らかに笑いながら外へ出て行ったかと思うと、
「これをテレビの上に置いておくといいに」と言って、
こどもの手にはちょっと大きなビンを手渡された。
ビンの中には黒っぽいものが入っていたが、
それがなんだかは、わからなかった。
「そうなの?」
「お母さんは、それがお嫌いだもんでねぇ」
ねえやは、笑いながらそう言って、畑へ戻って行く。
わたしは半信半疑で手渡されたビンをテレビの上に置き、
再びテレビを見はじめた。
テレビが見たい、というよりも、
ほんとうに母に咎められないのか知りたかった。
しばらくして、テレビの音に気づいた母がやってきて、
「もうダメって言ったでしょ!」と険しい口調で言いながら、
テレビへと近づいて行った。
スイッチへ手を伸ばしかけ、「キャー!」と悲鳴をあげて、後ずさる。
どうやら、ビンの中身を判別したらしかった。
「誰がこんなものを!?」
母は、わたしが約束を破ってテレビを見ていたことより、
ビンを置いたことに怒っているようだった。
「ねえやが、置いておいたら怒られないでテレビ見られるよ、
って、さっき、くれた」
「……意地悪なんだから!」
そのビンに入っていたのは、
母の大嫌いな”ヘビ”だった。