パーキングブロックに沈む後輪を、みぞおちに感じて車を停める。
ウィンドを上げる。名刺入れを胸に、封筒片手に。
ルームミラーで鼻毛確認。大丈夫。顔の脇にアイビーグリーンの自転車が映る。
彼女はいるようだ。車を降りる。
2回ノックしてドアを開ける。
会社名を告げると、奥からどうぞと奏でるような声。
「失礼します」来客用スリッパに体を浮かせて事務所の中へ。
カウンタの向こう。事務の女性がPCモニタから半身ずらしてこちらを見つめている。
「請求書をお持ちしました。遅れてすいません」
彼女は笑顔で立ち上がる。「はい、確認しますね」
封筒を受け取り、その場で中身を広げてカウンタに並べて。
フロストピンクのDr.Gripで確認箇所めがけて用紙を点々と叩いていく。
「寒くなってきたから自転車は大変でしょう」
チェックが終わるタイミングを見計らって僕は話しかけた。
彼女の愛車がアイビーグリーンの自転車だということを僕は知っている。
通勤中の姿を見かけたことがあるからだ。
「そうなんです!」彼女は手を止めて、上目で僕を向いた。
「もうイヤマフ必須ですね~昨日から手袋もしています」
紺色のカーディガンが細身の彼女を一層儚げに感じさせる。
一見冷たい表情の彼女が話し出すと柔らかな笑顔に溶け出す様がとても可愛らしい。
早めに郵送すれば済む請求書を、締め切り間際に慌てて持ってきた体を装うのは
彼女と話すきっかけを求めての算段だった。
用件だけで帰っては進展がないので、何か話題を見つけて話すようにしている。
幸い今日は事務所にいるのは彼女だけ。
多少世間話をしていても他の社員に妙な顔をされる心配はなかった。
「あっ!」請求書に視線を戻した彼女が声をとがらせた「間違っています」
一部の表記が正式名称ではなく、略称で書かれているため
処理が通らないかもしれないという。
「書き直してきます。すいません」
「こちらこそ、ちゃんと通達できず申し訳ありません。正式名称の載っている書類を
印刷しますから」
モニタの前に戻る彼女。マウスを捌き、キーボードを弾く。
「あれ」今度は困惑した声。「補足を書き加えておこうとしたら、
文字入力がおかしくなってしまって…なんでだろう」
何度かキーを打ち直してみるも彼女の表情は浮かない。
「ちょっと見てもいいですか」
彼女が了解してくれたので僕は失礼してPCの前に移動した。
見るとエクセルのセルに"道の地も那須賃値"という謎の文字が置かれている。
「かな入力になってますね」
「あぁー」
ALT+[カタカナひらがな]キーでローマ字とかな入力を切り替えられることを説明。
「何かの拍子で切り替えてしまったのかもですね」
彼女は表情を緩ませて申し訳なさそうにお礼をのべた。
僕は彼女の役に立てたことが嬉しくて、立場を忘れて相好を崩しそうになる。
よく見ると彼女のモニターには付箋紙が所狭しと貼り付けられていた。
太文字で記号が書いてあったり、ゆがんだウサギの絵が居たり面白い。
デスクトップは特に飾り気もない。セルリアンブルーの壁紙。
しかしタスクバーに目を落とすと
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!
「MILU・・・」
「あっ」彼女は恥ずかしそうに手を左右に振った。
「それは仕事が退屈なときにこっそり遊んでいるゲームなんです」
所長には内緒で、と言って彼女は小さく舌を出す「マイナーなゲームですけどね」
取引先の事務員さんが・・・まさかのMILUプレーヤー。
「僕もMILUやってます!」
「ええっー」
聞くと彼女はもうレベル53でビギを5人も卒業させたというベテラン。
卒業したばかりの僕にとっては大先輩である。
「深海中に電話や来客があると、もー!って思うんです」
その後は他の社員が帰社するまでMILU話で盛り上がり、
ミルトモになる約束まで取り付けた。
なんて偶然だろう。
墨色の空が大観の屏風のように輝き、さんざめく。
これからはMILU上でも彼女と会えるのだ―
淡い期待を胸に、僕は浮くような気持ちで事務所を後にした。
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100%妄想でお届けw
約3人くらいの妄想日記ファンの皆様、お待たせ(^_^;)
知らない方のために補足しておくと、これは妄想マイスターのわしが
不定期連載している妄想日記の第5弾となりんす。
過去作も気になってくれた方は
・リア充編 ・カフェ編 ・キャバクラ編 ・セクシーパブ編
こちらをどうぞ(^_^)v
それではまた、次の妄想でw