「もうあの人とは一緒に居たくないの。貴方だけがあたしの大切な人・・」
そう言いながら佐々木希にそっくりな1/1スケールモデル実物大の本物が僕に縋り付いてくる
「でも君は人妻d・・・ウグッ」
堰を切ったように唇を重ねてくる佐々木希1/1スケールモデル実物大の本物
「旦那様!!」旦那様!!だんな!!」
「なんだなんだ、だんながなんだ」
新世代型超精密体感型VR装置のスイッチをオフにさせ、着ぐるみのようなスーツを脱ぎ、坂崎の呼びかけに応える
「大変で御座います、何やら妙な御仁が現れましてございます」
「我が家のセキュリティーはどうなっていたんだね」
「そ。それが、まったく異常は御座いませんで・・突然もわっと現れたような・・しかも・・あの・・その・・」
「はっきり言いたまえ」
「膨様に、旦那様に瓜二つなので御座います!!」
居間の馬鹿でかい純金製の電話がまた不思議な共鳴をしている
馬鹿でかいソファーにゆったりと腰掛け、もの珍し気に装飾を眺めつつ、我が家の使用人に話しかけている人物は、粋な紬の着流しに雪駄履き、ゆるくウェーブのかかった髪は茶筅に結い上げてある
懐から極薄型のスマホらしきものを取り出しあちらこちらに向けている
両手の親指と人差し指には金色の指輪をしていて、空間上に半透明のモニターらしきものを映し出し操作しているようだ
「失礼、ようこそいらっしゃいました。僕は櫻膨 櫻家の当主ですが貴方はどなたでしょうか?」
「これは異なことを申される 拙者こそが櫻家当主 櫻膨重勝 将軍家より九千石を賜る旗本でござる」
これは・・・・ははぁ
「誰だね?こんな手の込んだイタズラをしたのは」
周りに問いかける僕
「むむ、無礼であろう 三度(みたび)の世界大戦(おおいくさ)を生き抜いた武門の家柄、愚弄すれば抜く手は見せぬぞ!!」
どこに仕込んでいたものか、細身の拵えながら刀の鯉口を切る自称櫻膨重勝
「あいやしばらく!!!しばらくお待ちくださりませ!!!」
坂崎の声が響き渡る
幼い日々よりSF小説を読んでいた僕は、事態を把握すると「なぜ?」より「どう」を第一に考え、事態に適応する
「櫻殿、見れば僕らには浅からぬ因縁がありそうです、一つじっくりと話を聞かせてくれないだろうか」
「奇怪ながら我が身に起きたこと、さればお話ししよう」
意思の疎通も打てば響く如く、滔々と話しだした彼の話は以下の如くである
南蛮暦2020年 日ノ本令和2年 文月(こちらでは7月、恐らく旧暦であろう) 旗本櫻膨重勝はその屋敷内おいて共鳴音を耳にし、霞掛かるようなその中心に足を踏み込んだところ、この場に来ていた
徳川将軍家は20代目である
15代将軍慶喜の時代、薩長によるクーデターは時の明治天皇の一喝によってとん挫し、「政(まつりごと)は徳川が致せ」との詔が出された
四民平等ではあるが世襲が奨励されている。故に技能知識の蓄積が進み、科学情報通信は世界に秀でている
将軍家も世襲であるがその道徳性が高く、また法律よりも道徳が優先され世界の規範となっている
武士は治安、国防にその責務を負い、平時にあっては自己鍛錬にいそしみ、昇華した武士道は平民の教化にも強い影響を持っている
貨幣経済は国内では小規模であるが、各自が持つ端末に「仁徳料」という「感謝蓄積機能」があり、いわゆるポイントとして使用できる。ゆえに「金儲け」で目を血走らせる輩はほぼいないし、不正が行われれば「八分」という社会制裁が行われる
潤沢な金の埋蔵量があり、貿易決済などには金に裏打ちされた「ZENY」が通貨として使用されており、紙くず同然のドルやポンドは地域通貨である
日々の生活は、日の出から日没を主にそれぞれの仕事に充てる
総人口2億人の食料自給率は95%であり百姓、漁民、畜産などは大変感謝されている
商人、職人も「世のため人のため」に働くことに誇りを持ち、「綺麗に儲けて綺麗に使う」「粗悪な品は職人の名折れ」という心意気である
などなど・・・
どうも話を聞いていると、僕らの世界っていったいこれで良かったのだろうかという疑問が湧いてくる
「櫻殿、よかったら僕もそちらの世界に行ってみたいのだが、同意してもらえるだろうか」
「なるほど、拙者がこちらに来ただけでは片手落ちでござる。百聞は一見に如かず、共にに参られよ」
馬鹿でかい純金製の電話を中心に鳴り響く共鳴音
櫻殿と一緒に僕も進んでゆく
「ささ、こちらで御座る」
僕の意識がすーっと遠のいた
「あなたじゃなきゃダメ、お願い膨様」
あれ?君は佐々木希1/1スケール実物大の本物?!
「旦那様!旦那様!!お気を確かに!!旦那様ああああああああああ!!」
「うぅ、なんだね崎坂(ぼーっとすると坂崎でも崎坂でもどっちでもよくなる体質の僕である)
「おぉ!!ご無事でありましたか、よ、よかった」
涙ぐむ坂崎の顔が目の前にある
「鼻水が垂れるじゃないか、いったいどうしたんだね?櫻殿はどうなった?」
「何を仰いますやら、旦那様!しっかりなさいませ。新世代型超精密体感型VR装置の試験中に暴走して異常が検知されたようでございます。ご気分はいかがですか?」
また夢落ちかよ
こんな体験ができる真夏の夜の夢って最高じゃないかと思う僕である