休みだったので!
モバイルで書き溜めた奴を放出ー
※続き物ですがシリーズ化は考えていません。
※事情により時系列はバラバラです。第一話からどうぞ。
※第一話http://www.milu.jp/popup_inc/diary?id=99696&uid=qqShoaya
※第二話http://www.milu.jp/popup_inc/diary?id=101133&uid=qqShoaya
さあいってみよう!w
-幽霊と指したオセロ-
第三回
「境界(前編)」
境界、という言葉がある。
意味としては、世界と世界の狭間というところか。
まあなんにせよ、これも境界の一つなんだな・・・と思えたある出来事。
免許を取ったばかりの冬。
以前にブラッドが言っていた「行動範囲が広がることの楽しさ」がわかるようになっていた。
とは言っても俺も場合においては、当時流行っていたアーケードゲームが地元のゲームセンターにはなく、隣の○尾市にしかなかったため、そこにいく為に重宝していた、という程度である。
俺もブラッドも格闘ゲームが大好きで、SNKの新作が出たのはいいが、地元にないからあっちまでいくかと、ブラッドのアパートから車で30分程の距離にあるゲームセンターまでよく行ってたっけ。
その日は二人共調子が良かった。
対戦は連戦連勝・1コインで30分は余裕で遊べるほどの勝ちっぷり。
ニヤニヤ笑いが止まらない。
そんなわけだから、ゲームセンターを出たのは夜の12時を回ってからだった。
南国熊本とは言え、2月に降る雨はそこそこ冷たく、建物から車までダッシュを要求するには十分なほど外は冷え込んでいた。
俺は助手席へ、ブラッドは運転席へ。
勢い良くドアを閉め、ブラッドがキーを捻るのを待つ。
ついでに、ネガネを外し、ダッシュボードの上に置いた(これは助手席に乗るときの俺の癖)。
古い中古の軽自動車は、寒さの所為か苦しそうにエンジンを回しはじめた。
アイドリングが不安定だ。
俺は不安になった。
ここから帰るためには、山を一つ越えなくてはいけない。
その山の麓、○○公園の先にブラッドのアパートがあるわけだが、そこに至るまでの山道はとても暗く(現在は整備されている)、更には自殺が多発する○○公園の脇を通らなくてはいけない。
ほかにも国道を通るルートがあるのだが、そっちはこの時間帯、暴走族が多く出没し、正直言って通りたくはなかった。
よって選択肢は1つ。
いつ止まるかわからない車で、山道を通り、心霊スポットを抜けて帰るしかなかった。
田舎の山道をご存知だろうか?
街頭はほとんどなく、あったらそこは大抵、霊園や墓地。
女の子がいればきゃーとかこわーいとか、そんな声で気も紛れるのだが、野郎二人だとなんか変な感じだ。
ギアを低くして、回転数を上げないとないとエンジンが止まりそう。
よって、自動的に速度も低め。
上り坂などは20キロ程度が限界ではなかったか。
ラジオを大音量で流していたためか、余り恐怖心は無く、山道は難なく通り抜けた。
後は○○公園を抜けるのみである。
○○公園・・・
歩道を挟んで存在するその公園は、昼間は子供たちで賑わうのだが、夜、それも12時過ぎとなると、異様な静けさを湛えていた。
大人の背丈ほどもあるフェンスが公園の敷地をぐるっと囲んでおり、2箇所ある入り口以外からは、容易に出入りはできない構造だ。
幸いなことに、フェンス沿いには街頭が設置されており、通過する際は今まで通ってきた山道とは比べ物にならないほど明るい。・・・とはいっても比較論なので、一般的には「薄暗い」といった方が実情に沿う形になるか。
上り坂。
遠くに見える街頭が、公園にさしかかったことを告げている。
俺は何とも言えない緊張感を感じていた。
漠然とした恐怖とでも言うのだろうか。
とにかく、「やな感じ」なのである。
・・・なにかが・・・見えた・・・
遠くに何かが見えたのだ。
前方の街頭の下。
「ブラッド」
ん、と小さく答えるブラッド。
同じものが見えたらしい。
赤い人影だった。
近づくにつれ、それはしっかりと像を結ぶ。
赤いレインコートを羽織った、女性。
歳は俺たちよりもすこし上に思えた。
雨の所為か深く被られたレインコートのためその表情はうかがい知れなかったが、フェンスの向こうで体をこちらに向け、手を上げている。
なにか困り事だろうか。
「ブラッド、あれ女子だよな?」
「そうかも。」
「困ってるんじゃない?」
「うん、ちょっと止まろう。」
別に下心があったわけじゃ、、、ない。
確かに恐怖はあったけど、こんな時間に女の子一人とは、何かわけがあるのだろう。
幸いこちらは男2人、なにかがあっても対処できる・・・と思えた。
徐々に、車は徐々に女性へと近づく。
その時。
がくん、と車が揺れて俺の背中がシートに押し付けられ、ダッシュボードにおいていたメガネが床に落ちる。
ブラッドは「加速」したのだ。
一瞬で車は女性の横を通り過ぎた。
驚く俺をシカトするように、ブラッドは無言。
「おいおい、メガネ壊れたじゃんよ・・・」
ツルが折れた俺のメガネに謝れ!と言ったけど、結局アパートにつくまで、ブラッドは無言だった。
上がっていい?と恨みを込めて壊れたメガネをぷらぷらさせながら聞く。
ああ、と小さく呟くように言いながら、ブラッドは俺を部屋へと招き入れた。
軽く濡れた体を拭いて、タバコに火を点ける。
ふう、と、煙で視界を白く染めてから、聞いてみた。
「なんで止まらなかったん?」
それどころか加速したのだ。
早く立ち去りたいと言わんばかりに。
「おまえなー・・・」
と言って灰皿を手繰り寄せてブラッドは続けた。
「お前がもし、道端で困り果てて助けを求めるんだったら、どこに立つ?」
あん?
「まともな神経の奴がさ、一人で夜中の心霊スポットの中にいるはずがねえだろ」
ん?
どゆこと?
ブラッドは呆れたように1フレーズを繰り返す。
「中。中だよ。」
・・・
「立ってたのは。フェンスの向こう。公園の・・・中。」
背中に冷水をかけられたようだった。
そうだ、よく思い出してみれば、確かに女はフェンスの「向こう側」にいた。
女一人で、暗闇の公園の中で、こっちに向かって手を上げて・・・
呆然とする俺からメガネを取り上げ。今日は泊まっていくだろ?と聞くブラッド。
冬の雨以上の寒気を感じた俺は、こくこく、と頷くしかなかった。
その後、アレは一体何だったのかと話し合ったが結論は出ず、悶々とした日々を送っていたのだが、さらに数日が流れて、近所の小学校の先生が児童を引き連れて集団下校をするようになり(不審者目撃多数のサイン)、俺たちの中では「ただのキチ○イ」として片付けられてた。
いやまあそれでも十分怖いんだけど。
もう夜に通らねーw、なんて能天気に話してたんだ。
まさかこの時
この事件が
10年も経って
意外な終結を迎えることになるなんて
夢にすら思わなかった。
-境界(前編)-
続