https://dot.asahi.com/dot/2017051700065.html?page=1
ドライバーも兼ねる男性スタッフが軽トラックの荷台を開けると、野菜や果物、肉、魚、調味料、菓子といった商品が出てきた。その数約1000種類、1600点。刺し身や巻きずし、総菜などもあり、さながらミニスーパーのようだ。お年寄りたちはさっそく、品物を手に取って買い物を始めた。
80代女性は「買い物は足が悪いのでタクシーばっかり。1人暮らしだから、このぐらい(の品ぞろえ)で十分間に合うのよ」と笑った。買い物をしている人たちは、なんだか楽しそうだ。事業所のスタッフの女性は「(ここに来ているのは)要介護者の人ばかりなので、買い物が一番困る。家族が買ってきてくれる人もいるが、自分の目で見て、買いたいものを買うのとでは全然違う」と話す。
1人暮らしの80代の女性は普段は自転車で買い物や病院に行くが、荷物を持って坂の上にある自宅まで帰るのはつらい。近くに娘家族が住んでいるが、子どもが数人いるため、なかなか頼みづらい。そんな女性にとって、玄関先まで来てくれるとくし丸はありがたい存在なのだ。「(とくし丸が)来てくれるとだいぶ違う。選ぶ楽しみがあるし、『こんなんほしいんやけど』と頼んだら持ってきてくれるし」と話す。
移動スーパー「とくし丸」は、徳島市に本社がある同名の会社が、地域から商店がなくなったり、交通手段がなかったりして日常的な買い物が困難な「買い物弱者(買い物難民)」を支援しようと、2012年から始めた。「販売パートナー」と呼ばれる個人事業主が、専用の軽トラックに、同社と提携する地元スーパーから仕入れた商品を載せて、定期的に顧客を回って販売する。玄関先に車を停めて顧客に買い物を楽しんでもらう一方で、地域の「見守り隊」としての役割も担う仕組みだ。
商品の価格は、店頭価格プラス10円。買い物弱者に役立ち、販売パートナーや地元スーパー、とくし丸が利益を挙げられるビジネスモデルは全国に広がり、17年4月27日現在、36都府県で208台が活動している。地域の提携先のスーパーは65社に上る。
経済産業省の調査では、14年10月時点で、買い物弱者は全国に約700万人いると推計されている。今後は高齢化により、農村や山間部だけでなく、都市部でも深刻化が予測される。とくし丸は、一つの解決モデルとなりうるのか。今後も注目したい。
買い物難民を減らすためには地域に小型店・移動スーパーが増えることが効果的
https://www.commercetime.net/2019/04/14/supermarket-shortage-countermeasures/
日々の生活に必要な食品、日用品の買い物に問題を抱えている、買い物難民が社会問題になりつつあります。高齢化社会が進むと、自動車を運転しない人、体力に不安のある人が増え、買い物に行く範囲が狭い人が増えます。また、小売業では老朽化した店舗を改装せず、閉店することが多くなっています。高齢者の買い物範囲が狭くなることと、小売業の店舗の閉店が重なり、買い物難民になってしまう高齢者が増えます。
小売業が買い物難民を減らすためにできることは、徒歩で買い物に行ける小型店を増やすこと、移動スーパーを増やすことの二つです。徒歩で買い物に行ける小型店については、コンビニ、ドラッグストアの店舗数が増えることが望ましいです。移動スーパーについては、「とくし丸」がスーパーマーケットと連携して稼働台数を増やしています。
コンビニ、ドラッグストアの店舗数、移動スーパーの稼働台数が、日本全国で順調に増加すれば、買い物難民対策になります。地域にコンビニ、ドラッグストア、移動スーパーが揃えば、高齢者は買い物がしやすいです。コンビニ、ドラッグストアの店舗数は順調に増加を続けていて、移動スーパーの稼働台数の増加がポイントになりそうです。
小売業に関係がある社会問題がいくつかありますが、買い物難民はその一つです。買い物難民とは、小売業の店舗の閉店、公共交通機関の縮小・廃止などの理由により、日々の生活に必要な食品、日用品の買い物に問題を抱えている人たちのことです。買い物困難者、買い物弱者といった言葉も、買い物難民と同じ意味で使われます。
買い物難民は小売業の問題そのものであり、小売業は買い物難民を減らすための取り組みを進めたいところです。日々の生活に必要な食品、日用品の買い物に問題を抱えている人がいることは、小売業としては残念です。小売業はつまらない仕事、単調な仕事と評価されることも多いですが、人々の生活を支えている重要なインフラでもあります。
農林水産政策研究所は、食料品アクセス困難人口という言葉を定義しています。食料品アクセス困難人口とは、店舗まで500m以上かつ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者のことを指しています。店舗には、食肉、鮮魚、野菜・果実小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストアなどが含まれます。
65歳以上の高齢者であっても、自動車を運転できる人は、買い物に問題を抱えていないと考えられます。65歳以上の高齢者で、自動車を運転しない人にとっては、徒歩で買い物に行ける範囲に店舗がないことは問題です。自動車を問題なく運転している65歳以上の高齢者も、いつかは自動車の運転が難しくなる日が来ます。自動車がなくても、無理なく買い物ができる環境を作ることが、買い物難民問題の目指すべき方向性です。
農林水産政策研究所は平成27年国勢調査(2015)に基づき、2015年の食料品アクセス困難人口の推計値を算出しています。65歳以上の食料品アクセス困難人口は824万6,000人で、65歳以上の人口の24.6%です。75歳以上の食料品アクセス困難人口は535万5,000人で、75歳以上の人口の33.2%です。65歳以上の人口の24.6%、75歳以上の人口の33.2%という数字は大きく、身近に買い物難民がたくさんいることになります。
三大都市圏(東京・名古屋・大阪)の食料品アクセス困難人口は、65歳以上は377万6,000人(23.3%)、75歳以上は219万4,000人(29.5%)です。地方圏の食料品アクセス困難人口は、65歳以上は447万人(25.9%)、75歳以上は316万1,000人(36.4%)です。買い物難民と聞くと地方をイメージしますが、三大都市圏の食料品アクセス困難人口も多く、買い物難民は都市、地方の両方に存在している問題です。
買い物難民が増える要因は、お客さん側、小売業側の両方にあります。お客さん側の要因は、自動車を運転しない人が増えたこと、体力に不安のある人が増えたことです。小売業側の要因は、小売業同士の競争激化、ネット通販の拡大、店舗の老朽化により、店舗の閉店が増えていることです。自動車を運転しない高齢者の場合、近くの食品、日用品を販売する店舗が閉店してしまうと、すぐに買い物に難民になってしまいます。
高齢者の買い物範囲が狭くなること、小売業の閉店が増えることについて、進行を止めるのは簡単ではありません。高齢者は歳を取ると体力が落ち、自動車の運転が難しくなることは避けられません。小売業は既存の店舗を維持することが難しくなっていて、人口の減少、ネット通販の拡大を考えると、今後も閉店が増える可能性が高いです。
65歳以上の高齢者は若い頃から自動車を運転していて、総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター、ディスカウントストアなど、複数の店舗で買い物をして来ました。昔からある小売業の古い店舗では、多くのお客さんが自動車を運転して買い物に来ています。現在、問題なく自動車を運転している高齢者も、10年、20年経つと、自動車の運転が難しくなり、買い物難民になってしまう可能性が高いです。
昔からある総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター、ディスカウントストアの中には、開店から20~30年も経つものもあります。こうした店舗が老朽化すると、改装を選ばすに、閉店することが多くなっています。高齢者は購入する品目が少なく、若者は人口が少ないことに加え、ネット通販で買い物をする人もいます。小売業にとって、古い店舗を改装しても売上の増加が期待しにくく、閉店せざるを得ない状況です。
買い物難民は生活に必要な食品、日用品の購入に問題を抱えています。生活に必要な商品を販売することは、小売業の重要な役割であり、買い物難民問題を解決しなければなりません。小売業が買い物難民を減らすためにできる施策は、徒歩で買い物に行ける小型店を増やすこと、高齢者宅に商品を配達することの二つが考えられます。
高齢者の買い物の選択肢を増やすという意味では、小型店と配達の両方あった方が好ましいです。小売業が負担するコストを考えると、小型店を増やす方法が良さそうですが、配達には利便性・柔軟性があります。買い物難民問題を解決するためには、地域に食品、日用品を販売する小型店があり、そこから配達もできるのがベストではないでしょうか。