ホテイアオイ 
(布袋葵、学名:Eichhornia crassipes)は、単子葉植物ミズアオイ科に属する水草である。南アメリカ原産で、水面に浮かんで生育する。花が青く美しいので観賞用に栽培される。別名ホテイソウ、ウォーターヒヤシンス。
南アメリカを原産地とし、
北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、ハワイ、日本、台湾、韓国、東南アジアなどの広い地域で外来種として移入分布している。
湖沼や流れの緩やかな川などの水面に浮かんで生育する水草。葉は水面から立ち上がる。葉そのものは丸っぽく、艶がある。変わった特徴は、葉柄が丸く膨らんで浮き袋の役目をしていることで、浮き袋の半ばまでが水の中にある。日本では、この浮き袋のような丸い形の葉柄を布袋(ほてい)の膨らんだ腹に見立てて「ホテイアオイ(布袋のような形をしているアオイ)」と呼ばれるようになった。茎はごく短く、葉はロゼット状につく。つまり、タンポポのような草が根元まで水に浸かっている形である。水中には根が伸びる。根はひげ根状のものがバラバラと水中に広がり、それぞれの根からはたくさんの根毛が出るので、試験管洗いのブラシのようである。これは重りとして機能して、浮袋状の葉柄など空隙に富んだ水上部とバランスを取って水面での姿勢を保っている。
ただし、全体の形は生育状態によって相当に変わる。小さいうちは葉も短く、葉柄の浮き袋も球形っぽくなり、水面に接しているが、よく育つと浮き袋は楕円形になり、水面から10cmも立ち上がる。さらに、多数が寄り集まったときは、葉柄は細長くなり、葉も楕円形になって立ち上がるようになる。水が浅いところで根が泥に着いた場合には、泥の中に根を深く下ろし、泥の中の肥料分をどんどん吸収してさらに背が高くなり、全体の背丈は最大で150cmにもなる。こうなると葉柄はもはや細長く伸びて浮袋状では無くなる。なお、この状態で水中に浮かせておくと、しばらくして葉柄は再び膨らむ。
夏に花が咲く。花茎が葉の間から高く伸び、大きな花を数個~十数個つける。花は青紫で、花びらは六枚、上に向いた花びらが幅広く、真ん中に黄色の斑紋があり、周りを紫の模様が囲んでいる。花が咲き終わると花茎は曲がって先端を水中につっこむ形となり、果実は水中で成長する。
熟した果実は水中で裂開し、水中に種子をばら撒く。種子から発芽した実生は最初から浮き草状の生活型をとるのではなく、浅い水中や水辺の泥の上で土中に根を下ろして成長し、株が大きくなると葉柄に浮袋を生じて水面に生活の場を広げていく。
また、茎から水平に枝を伸ばし、その先端に芽が生じて新しい株を作る。これによって素早く数を増やし、大きな集団になる。集団がさらに大きくなり、水面を埋め尽くすようになると、互いにより掛かり合って背が高くなり、分厚い緑の絨毯を水面に作り上げる。
日照量の高い環境で最もよく繁茂し、室内など光量の低い環境では次第に衰弱して枯死する。
花が美しい水草なので、日本には明治時代に観賞用に持ち込まれた。1884年、原産地のブラジルから米国経由で持ち込まれたというのが通説であるが、これより以前に遡るという考証もされている(後述)。
庭池の装飾用水草としたり石井 et al. 2001a, p. 22、路地での金魚飼育でも鑑賞・水質浄化のほか、浮草は根が金魚の産卵用に使えるので便利である。浮世絵にもあるように、(ガラス器の)金魚鉢や石井 et al. 2001a, p. 27、陶磁器のスイレン鉢(や火鉢)にも浮かべる。一般の(横見の)水槽での栽培にはこうした浮草より根を張る種類の水草が適している。
またホテイアオイの繁殖力を生かして、水中の窒素分などをこの植物に吸収させることを目指して、水質浄化のために利用しようとの試みもあるが、多くの場合、繁殖した植物体をかき集めて処理する手間がかかるために永続性に欠け、水域に投入しただけで環境に良い事をしたつもりになって放置しているケースも目立つ。むしろ、いくら閉じこめたつもりでも、少しでも外に出れば大きな問題を引き起こすような外来種を、水質浄化など、環境対策として用いることは環境浄化の方法として好ましくないと、多くの専門家が批判している。
メタンガスなどバイオ燃料の資源としての活用が研究され、期待もされている。
海外各地では、蔓を編み込んで再生紙、家具、ランプシェード、籠やバッグ、ロープなどに利用など、起業者やNGO等がビジネスとしての成立を試みている。
家畜の飼料としての商業化も試みられている。ブタ、カバなどの草食哺乳類の餌となる。
ホテイアオイの研究者で、名水の研究家でもある石井猛と共同で、ホテイアオイ焼酎『おいさあ』を開発した。
外来種化における問題として世界の熱帯・亜熱帯域に帰化し、日本では、本州中部以南のあちこちで野生化している。寒さに弱く、冬はほとんど枯れて悪臭を放ち地域の迷惑となるが、一部の株がわずかに生き延びれば、翌年の春~秋場にかけて再び大繁殖する。もともと繁殖力が強く、富栄養化した水域ではあっという間に水面を覆い尽くす。のみならず、このように肥料分が多くなると、個体の大型化もみられる。
結果、水の流れを滞らせ、水上輸送の妨げとなり、また漁業にも影響を与えるなど日本のみならず世界中で問題となっている。
この植物の大繁殖によってインドの西ベンガル州の漁業は大打撃を受けた(1950年代に推計45,000トン)。そのためベンガル地方では「(美しき)青い悪魔」と恐れられ、インドの他所では「ベンガルの恐怖(テロル)」と忌み嫌われた。バングラデッシュでは世界第二次大戦の始めにドイツが意図的に移植させたという俗信から「ドイツの雑草(ジャーマンウィード)」と呼ばれ、スリランカでは逆に日本軍の軍用機を危険な着地に誘い込むため英国が植えたという事で「日本のトラブル」と呼ばれた。南アフリカや南米の一部での異名は「フロリダの悪魔」である。
冬季に大量に生じる枯死植物体も、腐敗して環境に悪影響を与える。さらに、水面を覆い尽くすことから、在来の水草を競争で排除する事態や水生動物への影響も懸念される[2]。また、アレロパシーも有する。
このため、国際自然保護連合(IUCN)種の保全委員会が作成した 世界の侵略的外来種ワースト100(100 of the World's Worst Invasive Alien Species) に選ばれている。ただし、日本ではホテイアオイは特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律において、特定外来生物には指定されていない。これには後述の通り、見解がまとめられていないことが挙げられている(ただし要注意外来生物には指定されている)。