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住民登録や戸籍の届出は、法令に規定された義務であるため、私たちは法令にしたがい住所・氏名などの個人情報を役所へ提供するしかありません。
ところが、私たちの個人情報は、形式的に要件を満たしただけの委任状や職務上請求により、役所を通じて本人の同意なく本人以外へ提供されていきます。
弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士に認められた、住民票の写しや戸籍謄本などの交付請求。
これらの士業を「八業士」といい、八業士は受任した職務を遂行するために必要な範囲に限り、本人からの委任状なしで、住民票の写しや戸籍謄本などを交付請求することができます。
住民票の写しや戸籍謄本などは、何度も職務上請求による不正取得がニュースとなりました。
そこで、住民票の写しや戸籍謄本などに記載された本人へ、交付後に通知する制度(以下、本人通知制度)が始まった経緯です。
本人通知制度は、2009年に大阪狭山市での導入が最初だと言われていますが、全国の半分程度まで広がっていると推測されます(2022年9月時点、正確には不明)。
困ったことに、本人通知制度があっても公式HPがあるとは限らず、公式HPがないからといって本人通知制度がないとは限りません。
このページの最後に、導入自治体一覧表と公式HPへのリンク(公式HPがある場合)を掲載しています。住民登録や本籍のある(あった)自治体に、本人通知制度があるか調べるのに使ってください。
本人通知制度とは
本人通知制度とは、以下の住民票の写しや戸籍謄本など(以下、住民票の写し等)について、特定の要件を満たした場合に、交付した事実を本人へ通知する制度です。
- 住民票・除票の写し
- 住民票の記載事項証明書
- 改正原住民票の写し
- 戸籍の附票・除附票の写し
- 戸籍謄本・戸籍抄本
- 除籍謄本・除籍抄本
- 改正原戸籍謄本・改正原戸籍抄本
- 戸籍記載事項証明書
- 除籍記載事項証明書
例えば、AさんがBさんの戸籍謄本を取得したら、取得されたBさんに通知されます(全てにおいて通知されるわけではありません)。
知っておきたいのは、本人通知制度が住民票の写し等の交付をできないようにする制度ではなく、交付前に交付の可否を本人へ確認する制度でもないという点です、
要するに、住民票の写し等の交付要件は、本人通知制度があっても同じです。
本人通知制度は4種類
本人通知制度は、大きく分けて以下の4種類あります。
- 事前登録型(登録が必要)
- 被害告知型(登録が不要)
- 委任状型(登録が不要)
- 登録不要型(登録が不要)
それぞれの制度は後述しますが、単一で運用している自治体と、複数を併用している自治体があり、基本的には同じ種類なら似たような制度になっています。
本人通知制度は、各自治体が要綱等(一部の自治体では条例・規則)で運用しているに過ぎず、国が定めた法令に基づく制度ではありません。
したがって、運用ルールは各自治体で異なり、この記事で説明しているのは制度の概要です。実際に利用したい自治体の運用ルールは、その自治体に確認するしかないので注意してください。
亡くなっている人・失踪宣告を受けた人は対象外
本人通知制度は、住民票の写し等が交付されたことを本人へ通知する制度ですから、通知すべき本人が亡くなっているか、失踪宣告を受けて死亡とみなされた場合は対象外です。
例えば、亡くなった親の住民票の写し等を対象に、子が通知を受けようとしてもできません。
亡くなった親の住民票の写し等でも、子が記載されている世帯住民票や戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)などは、子が本人なので通知を受けられます。
つまり、あくまでも住民票の写し等に記載された本人だけが通知を受けられる仕組みです。
現在の自治体だけではなく一つ前の自治体も重要
現在住んでいる自治体・本籍のある自治体は、誰でも気にするのでですが、少なくとも一つ前の自治体まで気にしておく必要があります。
なぜなら、一つ前の住民票(除票)には、転出先である現在の住所が記載されており、一つ前の戸籍(除籍)には、異動先である現在の本籍が記載されているからです。
とはいえ、本人通知制度は各自治体の独自運用であるため、自分が通知してほしいからといって、制度がない自治体に通知してもらうことはできません。
この記事を公開するにあたり、本人通知制度を導入すべきとする住民からの要望や、議会からの質問があっても、導入を見送っている自治体を確認しています。
そうした自治体では、住民サイドの要望が今より大きくなるか、重大な不正取得の事件が起きない限り、制度導入に舵を切らないのだと思われます。
通知してほしい自治体が、制度を導入しているかどうかは運レベルです。
本人通知制度と地域性
本人通知制度と地域性
全国の市区町村を調べてみると、本人通知制度の導入には明確な地域差があります。
東日本では、関東より北(北海道・東北)でほとんど導入されておらず、西日本(特に近畿)では、導入している自治体が多いです。
理由として思いつくのは、根強く残る人権・差別問題なのですが、その点は本記事の主旨ではないので詳しく述べません。
ただ、過去に事件化した住民票の写し等の不正取得において、目的の大半が身元調査だったと明らかになっており、探偵・興信所など複数の業種と士業が結託していたこともわかっています。
他には、ストーカー犯罪、振り込め詐欺、訪問販売などですが、なりすまし等も十分に考えられます。
逆の視点では、不正ビジネスが成立するほど身元調査の需要が大きいわけで、本人通知制度を導入している自治体が(広域に見て)多い地域ほど、人権侵害や差別行為が深刻だといえます。
個人情報保護に対する理解度と国民性
個人の特定に結びつく個人情報は、本人の同意を得なければ、他人へ提供しないのが個人情報保護の基本的なスタンスです。しかし、私たちの日常生活において、個人情報は決して保護されているとはいえません。
例えば、スマートフォンの連絡先・電話帳にアクセスする(いわゆる友だち機能がある)SNSアプリは、ごく当たり前に使われていますが、連絡先・電話帳に保存されている多数の個人情報を、本人の同意なく流出させている意識の利用者は皆無でしょう。
元々、日本人には性善説を前提とする国民性があるので、「どうせ悪用なんてされない」といった理解不足から、他人の個人情報よりも自分の利便を優先しがちです。
個人情報を扱う側の意識が低いままでは、官民問わず個人情報流出が続くと思われます。
個人情報の流出では、流出による被害に注目されやすいですが、被害の有無で評価するのではなく、流出させてしまうこと自体への問題意識が浸透しないと、いつまでたっても根本的な解決に向かいません。
良く聞く「流出したが被害はなかった」では全く済まされない大問題なのです。
ましてや、住民票の写し等に記載された個人情報は、法令上の要件を満たせば「本人の同意なく合法的に」本人以外へ提供されるのですから、個人情報が同意なく提供されてしまった本人にとって、本人通知制度がもたらす利益はとても大きいはずです。
誰の請求で交付したのかは情報開示請求が必要
仮に、本人通知制度で通知されたとして、気になるのは誰が請求したのかでしょう。何の目的で請求したのかも気になりますが、まずは誰なのかです。
残念なことに、本人通知制度による通知では、①交付年月日、②交付した住民票の写し等の種類と通数、③請求者の種別(代理人・第三者の区別程度)までしか公開されません。
誰が請求したのか知るためには、情報開示請求が必要です。
そして、情報開示請求をしても全て開示されるとは限らないのですが、誰が請求したのかわからないと、何のための本人通知制度か意味が……となりますよね。
ですから、不正取得を抑止する目的で始まった制度であることを鑑みて、不正取得が明らかな場合や、交付された住民票の写し等で人権侵害などの被害を受けたと明らかであれば、交付請求書を全面開示する対応もあり得ます。
事前登録型の本人通知制度
前置き長くなりましたが、ここから本人通知制度の個別説明です。
事前登録型は、最も多くの自治体が導入している本人通知制度で、登録すると代理人や第三者への交付を通知してくれます。
登録にひと手間かかるとはいえ、他の本人通知制度(被害告知型、委任状型、登録不要型)には回避できない欠点がありますから(後述)、現状では事前登録型が最善と思われます。
事前登録型の通知対象者
- 現在の住民登録がある人・過去に住民登録があった人
- 現在の本籍がある人・過去に本籍があった人
事前登録型が通知対象とする請求
- 委任状を持参した代理人からの請求
- 権利行使または義務履行のためにされる本人以外からの請求(自治体で対応は分かれる)
- 八業士による職務上請求(訴訟や紛争処理などのために使用する目的を除く)
事前登録型の通知対象外
- 同一世帯員からの住民票関係の請求
- 同一戸籍に記載のある人・直系尊属(父母や祖父母)・直系卑属(子や孫)からの戸籍関係の請求
- 国や地方公共団体の機関からの公用請求
- 訴訟や紛争処理などのために使用する目的の請求
なお、注意点がたくさんあるので、不明な点は必ず自治体に問い合わせてください。
登録期間を定めている自治体がある
登録から一定期間を通知対象としている自治体と、登録期間の定めがない無期限の自治体に分かれます。登録期間のある自治体では、期間満了前に更新しないと登録抹消されてしまいます。
しかも、登録期間の満了が近いことを知らせてくれる自治体はほとんど確認できませんでした。いかにも役所らしいというか、不親切にもほどがありますよね。
よって、更新手続(期間満了の1か月前~3か月前程度の猶予)を忘れないようにしなければならず、登録する自治体が複数になると各登録期間の把握が大変です。
事前登録型の導入当初は、登録期間を定める自治体が多かったのですが、無期限に変更した自治体は確実に増えています。登録期間があると利用者に不便なので、いずれはどの自治体でも登録期間を無期限にするでしょう(希望的推測)。
登録は本人の窓口申請が原則
事前登録型の登録は、原則として本人による窓口申請です。
郵送による登録申請もできますが、登録したい自治体に住んでいない場合と、病気等のやむを得ない理由がある場合に限られます。
専用の登録申請書(登録申込書など名称は異なる)が用意されていますので、窓口でもらうか公式HPからダウンロードしましょう。
信じられないかもしれませんが、郵送申請できる手続なのに、登録申請書をダウンロードできない自治体があります。その場合は、自治体に連絡して登録申請書を郵送してもらう、担当部署にメールして添付で受け取る、公式HPへの掲載を要請するなど対処してください。
登録申請書以外に必要な書類は、申請者によって異なります。
本人が窓口で登録申請する場合
本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)を提示します。郵送では写しを添付します。
法定代理人が登録申請する場合
未成年の親権者、未成年後見人、成年後見人が法定代理人に該当します。法定代理人からの登録申請では、法定代理人の本人確認書類と、法定代理人を証明する書面が必要です。
- 未成年の親権者:親子関係を証明する戸籍謄本
- 未成年後見人または成年後見人:後見人であることを証明する登記事項証明書
任意代理人が登録申請する場合
任意代理人とは、法定代理人以外で本人から登録申請を委任された人のことです。例えば、本人の代わりに家族が登録申請する場合などです。
任意代理人からの登録申請では、任意代理人の本人確認書類に加え、本人からの委任状が必要です。
登録は個人単位で行う
事前登録型での登録申請は、通知を希望する人それぞれが行わなければなりません。
複数人の登録申請書を同時にまとめて提出することはできますが、登録申請そのものは個別に行わなくてはならないということです。
登録申請書に、委任する旨の記載と複数の署名欄を設けて、同一世帯・同一戸籍の人を委任状なしで一括申請できるよう工夫している自治体がありました。機転が利く自治体も中にはあるということですね。
登録が個人単位である以上、登録者に関する住民票の写し等が交付されないと通知されません。
例えば、同一世帯で登録者以外の個人住民票、同一戸籍で登録者以外の戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)などは通知の対象外です。
登録可能期間と除票・除附票の保存期間
住民票が消除された後の除票、戸籍が除籍された後の除附票においては、既に保存期間を過ぎて破棄されている可能性があります。
住民票除票・戸籍除附票の保存期間は、令和元年6月20日に5年間から150年間へと改正されました。
破棄されてしまった住民票除票・戸籍除附票は交付されることがないので、当然に通知されず登録申請の対象とはなりません。
このことから、5年よりも前に住んでいた人を登録対象外としている自治体があります。保存期間が150年間に改正されたことで、今後は制限がなくなっていくでしょう。
通知の送付先住所について
住民票の写し等が交付されたことは、本人へ書面で通知されます。主な通知方法は郵送だと思われますが、確認できなかった自治体が多いです。
郵送の場合、送付先への対応は自治体によって分かれます。
- 登録申請書に記載の住所へ送付する自治体
- 現住所以外でも送付先(代理人住所など)を指定できる自治体
- 住民登録している現住所しか認めない自治体
どうしても、特定の住所へ送付してほしい事情(本人がDV等から避難しているなど)があれば、登録申請時に相談してみましょう。