東京・北の丸公園に在る日本武道の殿堂、日本武道館。

屋根に巨大な玉ねぎを冠した八角形の建物は１９６４年の東京五輪

開幕に合わせ総工費１８億円で建てられた。（施工・竹中工務店）

今年で５２年目を迎え、老朽化も懸念されるが、大幅に改修して

２０２０年の東京オリンピックでも主会場として使用される予定らしい。

日本の音楽業界に於いて、武道館はどうやら音楽の聖地らしく、或る大物

ミュージシャンは、通算１００回を超える公演回数を鼻高々に自慢する。

あらゆる分野のミュージシャン達が口を揃えて、『いつかは武道館で

コンサートをするのが夢』と語る。いつの頃から、そんな勘違いが生まれたのか。

おそらく、じゃなく確信を持って云えるのは、１９６６年に初来日、

日本中を熱狂させた「ビートルズ」の日本公演が最大の要因だろう。

当時は１万人を超す収容能力の会場が、武道館ぐらいしかなかった時代。

警護も含め最適の会場が武道館だったのである。選択肢が無かったのだ。

そもそも、武道館は伝統武道の競技をより多くの観客に披露するために

造られた建造物だ。決してミュージシャン達の夢を叶えるための施設ではない。

私は武道館の内部構造のおかげで、大好きなバンドの日本公演が

台無しになった苦い思い出がある。

アメリカのラテン・ロック・バンド「サンタナ」。

彼らの公演を心待ちにチケットを入手。公演当日、初めて入館する武道館の

居心地の悪い狭い椅子席に座った時から、何だか嫌な予感はあった。

お気に入りの曲、「ブラック・マジック・ウーマン」の甘く切ないイントロが流れた

その時だった。「？！」。「あれっ、ちょっと待てよ」大いなる違和感を感じた。

ギターの名手、カルロス・サンタナが爪弾く、むせび泣く様なギターサウンドが

全く伝わってこないのだ。音がスーッと抜けない。円形の天井をグルグル

駆け巡る、くどいほどの反響音が不快感を増幅させる。沸々と怒りの感情が

込み上げてきた。「金、返せ！」心の中で叫んだ。２曲目、３曲目、

一度点いた怒りの炎はメラメラと燃え上がり、憎き天井まで達する勢いだった。

音楽なのに、音を楽しめないのは本末転倒である。

後悔した。落胆した。「こんな場所で聞くんじゃなかった・・・」

あの悪夢の日から６年後、再び天才ギタリストのサンタナが日本を訪れた。

即、公演場所を確認。有楽町の「東京国際フォーラム」。安堵した。

勿論、あの日の仇を討つために会場に足を運んだ。最新の音響設備を備えた

素晴らしいコンサートホール。サンタナの心に沁みるギターの音色が聴こえた。

期待以上、チケット代以上の演奏に留飲を下げたのは言うまでもない。