関東地方がうだる様な夏の真っ盛りの8月の、と或る日。
記録的な猛暑日が続いていたが、私自身がクーラー嫌いなせいもあり、我がアパートの部屋
では来客が訪れない限り、冷え冷えの状態になる事は無かった。
引っ越した当初、友人等を招くにあたり、快適さを考えてかなり奮発した。ハイグレードのクーラーを設置したのに、その後殆んど稼働する事は無かった。全く持って無駄な投資だった。
いつものように長時間の残業を終えて、日付変更線が過ぎた頃の帰宅時に、とんでもない光景に出くわした。2階の部屋の鍵を開けて玄関脇の照明スイッチをON。入ってすぐに、妙な異臭が鼻を衝く。最初は台所からニオイの元が発生していると思い、クンクンと嗅ぎまわったが、場所を特定するには至らない。すぐに隣のリビングに移動、電気を点けた。絶句である。見るも無残な有様に一瞬、この部屋で何が起こったのか?の事実を呑みこめなかった。
天井、壁、サッシのガラス、床の一面に黒い点々模様が飛び散っていた。「何事だ」混乱する頭。冷静さを取り戻そうと、よくよく観察を始めた。すると部屋の隅にあった大型の黒い収納ボックスの上部辺りが激しく壊れている。恐る恐る覗き込むと、ボックスの天板にこれまた黒い円柱の塊が突き刺さっていた。その塊の正体は「ペイント用のスプレー缶」だった。色が剝がれかかったテーブルの補修目的で、前の年の暮あたりに購入していた物だ。
39℃超えの連日の暑さで、部屋の温度が急上昇して、スプレー缶の内部圧力が高まり爆発してしまったのである。閉め切った部屋の温度は推して知るべしである。収納ボックスの上から2段目に置いていて破裂した缶は、まるでロケットの如く上方向に発射され、一番上の天板までぶち抜いていたのだった。リビングのソファやローボードに格納してたステレオやテレビも被害を受けた。
その日は時間も遅かったので、翌日の朝、真下の階に住む大家さんに事の顛末を報告しに行った。「○○さん、昨日の昼間、ドン!という大きな音が聞こえたけど、それが爆発音だったのね」と妙に納得顔をしていた。「もしも在宅時の爆発だったら、どうなっていたのだろう」と想像すると、ゾッとした。部屋の弁償費用の問題も発生したので、爆発したスプレー缶のメーカーに電話を入れて事故を報告した。事情を詳細に説明すると、「すぐに担当の者を伺わせます」電話の向こうから返事が返ってきた。
休日の日に合わせて若い担当者が訪ねてきた。一通り現場の検証を終えて一言。「スプレー缶の保管はなるべく冷暗所でお願いします。今回は、弊社商品の欠陥も考えられますので、10万円で補償いたします」との回答であった。勿論、私が被った被害額はそんな金額ではカバー出来るもんじゃなかったが、部屋を密閉していた自分にも責任の一端があるので、渋々ながらも手を打った。
教訓。「部屋は決して閉め切らず通風を施す事」。
あれほど酷い目に遭ったにも関わらず、今も尚、どんなに暑くてもクーラーのスイッチは「OFF」のままで過ごしている。